アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
IWC
ヨットクラブ
今回紹介するのは、IWCでも現在入手が困難になっているゴルフクラブ。その名が示すように、ゴルフでの使用を想定し、耐衝撃性と耐水性を重視したスポーツモデルだ。製造当時の1970年代にはあまり人気を得られなかったのか、短期間で製造が中止されてしまったために個体数が少ないレアモデルである。

【写真の時計】IWC ゴルフクラブ。SS(34mmサイズ)。自動巻き(Cal.8541B)。1970年代製。99万円。取り扱い店/黒船時計古酒店
デザインはパテック フィリップのノーチラスやオーデマ ピゲのロイヤルオークのデザイナーとして知られるジェラルド・ジェンタが手掛けており、2モデルにも通じるデザイン文法が用いられている。ケースラインからまっすぐと伸びたブレスレットに、ペンシル形の時分針が印象的だ。クッション形のケース形状は古典的であるものの、幅の広いブレスレットを組み合わせることでモダンな雰囲気とスポーティさを演出している。
アンティークのIWCのなかでも近代的な外装を備えたこのモデルは、現代においても色褪せない秀逸なデザインと言えるだろう。特に、ステンレスの無垢材を削り出したブレスレットには、同年の時計に見られる微調整用のバックルを廃したフラットな構造を採用しており、IWCの挑戦的な試みがうかがえる。一見するとバックルがないように見える構造は非常にスタイリッシュだ。
ムーヴメントには信頼性の高いCal.8541Bを搭載。1964年に開発された同社Cal.8541の改良版であり、IWCの特徴とも言える “ペラトン式”の自動巻き機構が採用されている。十分な巻き上げ効率と耐衝撃性が期待できるため、アンティークウオッチ初心者にとっても安心できる性能を備えたムーヴメントだ。

自動巻きローターを外した様子。中心のローター軸を支えるプレートに注目。※ムーヴメント写真は別の時計のものです
優れた耐衝撃性の秘密は、自動巻きローターの軸を支えるプレートに隠されている。
このプレートは曲がりくねった形状となっており、衝撃が加わった際にプレートがたわむことでショックを吸収し、ローター軸の破損を防いでくれるというわけだ。ちなみに、動力の伝達はローターから直接歯車で伝えるのではなく、先のプレートの上に重ねられた偏心カムとローラーを介して行っているため、隣接する歯車の破損リスクも軽減されている。
現代の自動巻きでは、ローター軸をボールベアリングによって保持する方法が一般的になっており、かつベアリング自体の性能も向上していることもあって優れた耐衝撃性を実現している。だが、かつての自動巻きローターは十分な対策が取られていなかったため、ローター軸の破損リスクが高かったのだ。
筆者自身も、ローターに耐衝撃構造を備えていない自動巻き腕時計を落としてしまった際に、ローター軸を破損させてしまった経験がある。
そのため、日常的に使用するアンティークウオッチを検討している人には、今回取り上げたような耐衝撃性を備えているモデルをぜひオススメしたい。アンティークの機械式腕時計であるため、丁寧に扱うことは大前提であるが、日常生活のなかで使用するぶんには十分な耐久性を備えている。どうしても華奢で壊れやすい印象をもたれがちなアンティークウオッチだが、優れた設計のムーヴメントはいまなお現役で稼働し、十分な性能を発揮することができるのだ。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎黒船時計古酒店