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【1960年代にセイコーが手掛けた傑作手巻き時計】毎時3万6000振動のハイビート機にまで進化したクラウン型ロードマーベルを振り返る

アンティークウオッチには、同じモノがひとつとして存在しないというオンリーワンの楽しさがある。
手作りゆえの技術的こだわりや工夫、そこに隠れているストーリーなど……。
その時代を反映した逸品をお届けしよう。

今回はLowBEAT編集部が取材を行うなかで見つけた、国産時計の基盤を支えた名機をご紹介する。


セイコー
クラウン型 ロードマーベル

今回は、1959年に諏訪精工舎が送り出した名機“クラウン”と、それを元に誕生したロードマーベルの後期型。今回はクラウンの系譜の終着点とも呼べる、クラウン型ロードマーベルを紹介する。

諏訪精工舎が製造を手掛け、手巻き式でありながら毎時3万6000振動のハイ ビートを採用したセイコーアンティークの金字塔。 ■Ref.5740-8000。GP(34mm径)。手巻き(Cal.5740C)。1973年製。参考商品

上位機種の技術的成果をトリクルダウンした傑作機

56年にセイコーが独自にムーヴメントの設計を行った最初のモデルであるマーベル。その誕生をきっかけに、セイコーはマーベルの設計に範をとったムーヴメントを次々と生み出していくこととなった。そして、その過程で58年に誕生したのが、今回紹介するシリーズの元祖とも言える、セイコー初の高級ラインである“ロードマーベル”だ。精度を追求し高級機にふさわしいムーヴメント仕上げが施されていた。しかし60年に、最上位機種であるグランドセイコー(以下、GSファースト)が発売されたことで、その座を譲ることとなる。

一方で、マーベルをさらに大型化することで精度と安定性を劇的に向上させた中級機の“クラウン”が59年に誕生し、様々な製品において諏訪精工舎を支える存在にまで成長を遂げる。先に述べたGSファーストも、クラウンの設計をもとに開発されたモデルであったのだ。

しかし、GSファーストはあまりにも高価であったため、61年には高級機の性能をより手の届く価格で実現したクラウンスペシャルが登場することとなる。

そして64年、GSファーストとクラウンスペシャルの生産終了を機に、ロードマーベルは大きな転機を迎える。クラウンをベースに高級機の技術を集約したCal.5740Aを搭載し、新たな姿へと進化を遂げたのだ。

クラウンをベースとしたCal.5740Aを搭載するモデル。筆記体のロゴが特徴的だ。金張りケースのほかに18金無垢やステンレスケースも存在する。 ■Ref.5740-1990。GF(35mm径)。手巻き(Cal.5740A)。1964年製/参考商品

【画像:搭載されるムーヴメントの変遷やモデルのバリエーションを見る(全6枚)

古典的な設計でありながら70年代まで生き残った設計

クラウンをベースとしたムーヴメントを搭載し、準高級機としてのポジションを確立したロードマーベルは、上位モデルの技術を受け継ぎながら進化を遂げていく。1964年に登場したCal.5740Aを搭載する初期モデルは、従来のロードマーベルと同様のスナップバック式裏蓋を備えていたが、65年頃からはスクリューバック式を採用するモデルが登場。基本的な構造はクラウンスペシャルを踏襲しつつ、部品の仕上げを簡素化する一方で、グランドセイコーと同様の微動緩急針を備えている点が大きな特徴であった。

1966年、ロードマーベルはさらなる精度向上を求め、毎時1万9800振動のCal.5740Bへと進化する。これは奇しくも、同年に2ndグランドセイコー(57GS)が果たした高振動化と歩調を合わせたものであった。グランドセイコーやキングセイコーに次ぐポジションという恩恵を十分に享受しており、社内における基本プラットフォームの底上げが、そのまま本シリーズの性能向上に直結していたのである。

そして67年、市販の国産時計としては初となる毎時3万6000振動を実現したCal.5740Cを搭載し、”ロードマーベル36000”として大幅なモデルチェンジを迎える。スイスの天文台コンクールへ向けて開発された高振動技術の思想が反映された同ムーヴメントは、精度の向上を図りつつも、耐久性は従来品と遜色ない水準にまで高められていた。

基本設計は古典的なクラウンを踏襲しつつ、輪列やテンプ径を最適化することでハイビート化に対応。後年に登場する第二精工舎(亀戸)のCal.45系と比較すれば明らかに設計は古いが、各所の耐久性に余裕を持たせた古典的設計であったからこそ、長期にわたる安定性を確保できたと言える。結果として、国内市場の主力機種のほとんどがクオーツへ移行した78年頃まで、約11年間にわたって製造が継続された。

かつて最高級機として誕生したロードマーベルは、時代に合わせてその役割を変えながら、20年以上にわたってセイコーの機械式時計史を支え続けた。まさに、国産手巻き時計の終幕を飾るにふさわしい名作シリーズなのである。

 

 

文◎LowBEAT編集部

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