現代の高級な腕時計には標準的に装備されている自動巻き機構。だが、その成熟に至るまでには様々な試行錯誤が重ねられていた。今回は現代では廃れてしまったメカニズムを搭載したユニークな自動巻き機構をもった腕時計を紹介する。
1本目は、1950年代に製造されたルクルトのバンパーオートマチックだ。
ローターが限定的な角度で作動する独特の構造が特徴。クラシックでスリムなケースデザインから、一見すると手巻き式にも見えるが、れっきとした自動巻き腕時計である。

【写真の時計】ルクルト。SS(33.5mm径)。自動巻き(Cal.P812)。1950年代製。34万1000円。取り扱い店/プライベートアイズ
ムーヴメント内部には錨型のローターと、それを受け止めるショックバネが組み込まれている。この構造により振動が大きく、ローターがバネにぶつかる際の動作音も大きかったため、一部の消費者からの評判は芳しくなかったようだ。
しかし、ショックバネに当たった際の反動や、わずかな動きでも回転しやすいハーフローターの特性により、巻き上げ効率は見た目以上に優れており、初期の全回転式ローター搭載モデルを上回る性能をもっていたともいわれている。また、非常にシンプルな構造で故障も少なく、高い信頼性を誇った。
ルクルトは、このバンパーオートマチックの技術を成熟させ、後年にはアラームウオッチにも搭載することを実現していた。自動巻きの進化の過程で淘汰されてしまっているが、十分な性能を発揮できる機構であったのだ。
次に紹介するのは、1930年代にワイラーが製造した、裏ブタ可動式の自動巻きだ。

【写真の時計】ワイラー。SSバック(23.5×41mmサイズ)。自動巻き。1930年代製。18万7000円。取り扱い店/プライベートアイズ
独特な巻き上げ機構から、ステープラー(ホッチキス)とも呼ばれ、2重になった可動式の裏ブタをホッチキスのように上下に作動させることで内ブタのピンが押し込まれ、ゼンマイを巻き上げる構造であった。
手首を曲げた際に、太さが変化することに着目した構造であったが、日常動作で十分な巻き上げ効率は期待できず、次第に廃れていってしまった構造である。また、リューズが裏ブタ側に配置されており、見た目の新鮮さと、手巻きが必要ない自動巻きらしさをアピールしていたことがうかがえる。
いずれの時計も、より優れた技術の誕生や、実用性の低さゆえに姿を消していってしまった機構だが、工夫を凝らした構造や、試行錯誤の痕跡が見て取れるギミックが男心をくすぐる逸品だ。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ