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そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
エニカ
ジャンピングアワー
圧倒的な高精度を誇るクォーツ式腕時計の台頭によって、スイスの機械式時計産業が窮地に立たされていた1970年代。精度の良い機械式時計の価値が薄れてしまったことに加え、人件費の高騰も相まってコストダウンを余儀なくされていた。そこで多くのメーカーは、当時クォーツ式よりも薄型かつコンパクトであったムーヴメントや、クォーツ式で実現していなかったクロノグラフなどといった機械式ならではの利点を生かしつつ、デザイン面での新しさをアピールする方針へと舵を切った。こうした背景のもと、70年代には多彩なデザインと色彩にあふれた腕時計が次々と誕生したのである。
今回紹介するのは、1970年代に製造されたエニカのジャンピングアワーだ。一見すると、70年代のSF映画で使われていた小道具のようで、とても時計とは思えないデザインだが、文字盤中央に引かれたラインに注目すると、外側からそれぞれ時・分・秒を示していることに気づくだろう。近未来感あふれるスペースエイジデザインが魅力的な1本だ。

【写真の時計】エニカ ジャンピングアワー。Ref.119-01-01。SS(37mmサイズ)。自動巻き(Cal.AS2072)。1970年代製。21万8000円。取り扱い店/WatchTender 銀座
まるで座標や時間軸を表しているかのようなこの文字盤は、機械式デジタル表示と呼ばれ、時分針を回転ディスクに置き換えることでそのデザインを実現している。この表示方式はエニカだけでなく、数多くのメーカーで採用され、様々なデザインや表示方法が模索されていたのだ。そうした中においても、エニカのジャンピングアワーは頭ひとつ抜けた存在感を放っていた。
鮮やかな青い文字盤に円柱型のレンズ風防を組み合わせたデザインは、視認性を向上させるとともにSF作品に登場する宇宙船を思わせるような、流線形の一体型ケースもまた魅力的だ。さらに、文字盤とケースは、ともに目立ったサビや腐食が見られない良好なコンディションを保っている。加えて、専用のステンレスブレスレットが装着されている点にも注目だ。
機能面に注目すると、時刻表示が瞬時に切り替わるジャンピングアワー機構を搭載することで、デジタル表示としての判読性も高められている。さらに驚くべきは、電池などを動力に用いるのではなく、汎用の自動巻きムーヴメントを改造してこの機構を実現していた点だ。大型の回転ディスクを、機械式ムーヴメントの強いトルクを生かして稼働させるという発想は、まさに見事な設計と言えるだろう。ベースムーヴメントには、信頼性の高いアシールド社のCal.2072を搭載しているため、適切な整備を施せば現在でも問題なく使用できるだろう。一点注意したいのは、ジャンピングアワー機構を備える時計で時刻を合わせる際、針の逆回し(反時計回り)を行うと故障の原因となるおそれがあること。必ず時計回り方向(時間が進む方向)のみで針合わせを行うことを忘れないようにしたい。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender 銀座