動力源にゼンマイを使う機械式腕時計には自動巻き式と手巻き式の2種類が存在する。
現在市販されている機械式といえば、手首に着けてさえいれば腕の振りなどによってローターと呼ばれる半円形の重りが回転して、勝手にゼンマイを巻いてくれるため、腕時計の大多数は便利な自動巻き式だ。
対して手巻き式は定期的にゼンマイを手で巻く必要があるため、どうしてもひと手間かかる。そのため何でも自動化されていく現代においては、あえて手巻き式を採用する超高級時計以外、国内でしかも10万円アンダーで買える手巻き式時計は極めて少ない。その最大の要因は国産時計メーカーが一般的価格帯で売りやすい自動巻きしか製品化しなくなったことが主な要因といえる。
その一方では、海外の有名な高級時計ブランドのなかには、A.ランゲ&ゾーネやモリッツグロスマンといった機械式ムーヴメントのメカニズムと美しさを追求し、あえて自動巻きではなく手巻き式の腕時計を主軸に展開している時計メーカーもあったりする。
時計の歴史を遡ると最初の頃の時計といえばすべて手巻きだった。その後1930年代になるとロレックスを筆頭に自動巻き式のムーヴメント(機械)が開発され、その利便性から徐々に自動巻きが増えていった。ただ実際には一部のブランドに限られており40年代までの腕時計はやっぱり手巻きが主流だったのである。
当時、腕時計の進化を早めたと言われる軍用時計もムーヴメントの構造がシンプルで壊れにくいということから60年代までは圧倒的に手巻き式が採用されている。
そんな手巻き式だが、自動巻き式と比べてどのような点でメリットがあるのだろうか。考えられることを挙げてみると
1、自動巻き式よりも構造がシンプルのため壊れにくい
2、オーバーホールなどメンテナンス時や修理の際の費用が安い
3、ゼンマイを自動で巻くための半円形のローター(振り子)が手巻き式には無いため、時計のケース自体が薄くて軽くなり着けていて疲れない。
4、手巻きの高級時計に限っては、ローターが無いためシースルーバックになった裏ブタから機械の細部が確認できる。そのため徹底して見せる仕上げが施されることも多く、そのメカニズムが生み出す造形美を堪能できる
そしてかくいう筆者もそうだが、“ゼンマイを手で巻き上げる”という「めんどう」な操作をあえて「楽しみ」と捉える好事家も時計好きには少なくない。手巻き式はゼンマイを巻き上げる際に出る「カリカリ」という小さな音。そして、手で巻いてあげるというひと手間が逆に愛着が湧いてくるというわけである。
現在、何十万円という価格帯であればそれなりに流通しているが、10万円以下の価格帯に限ると時計専門店に現在一般流通しているのは、ハミルトンのカーキ、タイメックスのマーリン、そしてここに掲載したミリタリーType1940ぐらいかもしれない。
菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa