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【意外に知らない腕時計の夜光】ロジウム、トリチウムそしていまや世界シェアほぼ100%の日本製|菊地吉正の時計考_016

時計の針やインデックスなどに使われていて、暗い場所に行くと光って時間が確認できる “夜光塗料”。かつては “ラジウム”と“トリチウム”の2種類が存在した。放射性物質と蛍光物質を掛け合わせて発光する自発光型だ。

1900年代初頭から懐中時計に使われ始めた強い放射線を発するラジウムは、文字盤に塗布する過程で女性の作業員が被爆するなど大きな問題に発展。1967年に国際原子力機関が時計への使用を規制した。その代わりに採用されたのがトリチウムだった。

余談だが、旅客機のパイロット向けとして最初に開発されたロレックスの初代GMTマスターの24時間表示回転ベゼルには表面にベークライトという透明な樹脂がコーティングされている。これは夜間でも第2時間を確認できるようにアラビア数字にラジウムが塗布されていたためである。これも後に問題視されてアルミのインサートに変更された。

さて、トリチウムといえば、2023年の福島第一原発による処理水問題で一躍注目を浴びたので覚えている方も多いだろう。筆者はそれを受けて「福島第一原発の処理水で知られる“トリチウム”。90年代以前の腕時計はそれによって逆に価値が上がるってホント!?」(関連記事参照)と題した記事を書いたところ、ものすごい反響だったことを鮮明に覚えている。

根本特殊化学株式会社によって開発された夜光塗料「ルミノーバ」

時計に使われたトリチウムは人体に影響がないという基準の25マイクロキュリー以下のもの。ただ低いとはいえ放射線を発する物質には変わりはない。そのためスイスの時計業界では放射線を一切出さない夜光塗料の開発が熱望されていたのである。

そんななかで白羽の矢が当たったのが自発光ではなく日中の明かりを蓄積して光を徐々に放出する、蓄光型の“ルミノーバ(N夜光)”だった。

ルミノーバは1993年に、日本の根本特殊化学株式会社によって開発された夜光塗料。酸化アルミニウムとストロンチウムなどを混ぜて高温で焼成、それを冷却させてブロック状にした後、粉末状にして樹脂やインクなどと混ぜて時計の文字盤に塗布される。

ちなみにスイスの高級時計などでよく聞く“スーパールミノーバ”とは、98年にスイスのルミノーバAG(根本特殊化学との合弁会社)がルミノーバをもとに改良を施し、時計向けに名付けたもの。主成分はルミノーバと同じだ。

現在のルミノーバ、スーパールミノーバの高級時計ブランドでのシェア率は、国内外にてほぼ100%を誇る。時計業界にとってはまさに画期的な発明だったというわけだ。

【画像】ラジウムが使われたロレックスの貴重な初代GMTマスター

■福島第一原発の処理水で知られる「トリチウム」。90年代以前の腕時計はそれによって逆に価値が上がるってホント!?
■知っておきたい、焼け具合が微妙に影響するトリチウム夜光のこと!|菊地吉正の【ロレックス通信 No.207】
■【たかが手巻き、されど手巻き】手巻き式腕時計の魅力とメリットを考える|菊地吉正の時計考_015

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。
2019年から毎週日曜の朝「総編・菊地吉正のロレックス通信」をYahooニュースに連載中!

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