いつ頃からだろうか。“マイクロブランド”という言葉が時計業界で頻繁に使われるようになったのは。ただ、我々のように時計専門のメディアであったり、時計の輸入商社であったりと時計を生業としている人たちは当然知っているだろうが、時計好きの人であってもあまり知られていないのが実情だ。
現に筆者は2023年8月に「MICROBRAND攻略BOOK」と題して、世界中のマイクロブランド170社以上を集めた時計専門雑誌をMOOKとして刊行している(写真)。しかし、その売れゆきはそれほど振るわなかった。つまり日本ユーザーにはあまり浸透していなかったからに他ならない。
では、そもそもマイクロブランドとは何なのか。明確な定義はあるわけではないようだが、MOOK本「MICROBRAND攻略BOOK」から引用するとこうだ。
「数百個単位の少量でコアなユーザーに向けて個性的な魅力を備えた商品を製造し、B to C(企業が直接ユーザーにプロダクトを提供)で商品を販売する小規模の独立系時計ブランドを指す」
いまはスイスだけでなく世界中に小規模な時計メーカーが誕生している。これは時計製造技術と工作機械の目覚ましい進歩はもちろん、なによりもセイコーやシチズン傘下のミヨタが汎用自動巻きムーヴメントを外販していることが大きい。そのため自社工房がなくても品質の高い時計を作ることができるようになったのだ。
これは日本でも然り。セイコー、シチズン、カシオ、オリエントが有名だが、現在はそれら大手メーカーを除く20以上ものマイクロブランドがすでに日本にも存在している。
ちなみに、かくいう筆者もそのひとりで、2019年に“アウトライン”という時計ブランドを立ち上げて、自社ECサイトだけでなくチックタックやオンタイム、ムーヴといった時計のセレクトショップでも販売している。
このように、いまや世界だけでなく日本でも増えつつあるマイクロブランド。いったい魅力はどこにあるのだろうか。端的にいうと大手メーカーのような制約が少ないことからある意味では自由。そのため独自性があって逆に新鮮だったりする。こういった点が世界的に評価されているのだろう。
なお、マイクロブランドと一括りにしているが、価格帯は様々。数万円の商品が中心のブランドから何百万円もする時計を手作りして販売しているブランドまでと実に幅広い。