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そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
セイコー
ワンプッシュクロノグラフ
今回取り上げるのは、1964年に製造されたセイコーのワンプッシュクロノグラフだ。
戦後の復興を世界にアピールする舞台でもあった64年の東京オリンピック。それまでのオリンピックでは、オメガやロンジンといったスイスメーカーがオフィシャルタイムキーパーを務めていたが、東京オリンピックではセイコーが欧州以外の時計ブランドとして初めて任命された大会でもあった。
そして、東京オリンピックの開催に合わせ、記念モデルとして販売された時計の一つが、今回取り上げるワンプッシュクロノグラフのシリーズだ。とは言え、今回取り上げた個体に関しては、オリンピック終了後の64年11月頃に製造されたもののようだ。
裏ブタには、発売当時に防水機能を備えていたことをアピールするタツノオトシゴのマークが刻まされている。加えて、初期型個体に見られた樹脂製ベゼルは破損しやすいため、実用を考慮するのであれば、今回取り上げた個体のような金属製の回転ベゼルを備えたモデルがおすすめだ。

【写真の時計】セイコー ワンプッシュクロノグラフ。Ref.5719-8980。SS(37mm径)。手巻き(Cal.5719A)。1964年製。28万8000円。取り扱い店/WatchTender銀座
【画像:裏ブタのタツノオトシゴの刻印やムーヴメントの状態を見る(全6枚)】
文字盤上には積算計などのインダイアルを備えておらず、クロノグラフでは60秒間の計測のみが可能となっている。また、簡易的ではあるものの、回転ベゼルによって60分の計測も可能だ。
戦前には懐中時計型の「セイコー カラフ」と呼ばれるクロノグラフが製造されていたものの、本モデルは戦後初の腕時計型クロノグラフであったとされている。基本的な設計は、諏訪精工舎が59年に製造を開始した“クラウン”をベースとしているため、“クラウン クロノグラフ”とも呼ばれているそうだ。
ワンプッシュクロノグラフの名の通り、2時位置のプッシュボタンを操作することで、クロノグラフのスタート、ストップ、リセットを行える点が最大の特徴だ。
ムーヴメントには、クロノグラフ機構を備えた手巻きのCal.5719Aを搭載。中3針のクラウンをベースとしたとされているが、テンプ周りを除けば面影がないほどに手が加えられている。
例として、コラムホイールと水平クラッチを用いたクロノグラフの動作制御を行うため、ムーヴメント中心部にあった秒針の役割を担う4番車を、従来のムーヴメントにおけるスモールセコンドの位置(6時位置)へと配置している。この4番車は、通常の輪列用歯車とクロノグラフ機構への動力伝達用歯車を重ねた二重構造となっているため、ムーヴメント中心に位置するクロノグラフ秒針へ動力を伝達しつつ、水平クラッチによって独立して動かすことを可能としているのだ。もっとも、本モデルでは秒針が廃されているため、通常のクロノグラフのような永久秒針による表示がないのが特徴だ。
戦後のセイコーでは、中3針のムーヴメントを中心に製造を行う方針が取られていたため、クロノグラフ機構を搭載するスモールセコンド仕様のムーヴメントが存在しなかった。そのため、今回紹介したワンプッシュクロノグラフのような、ムーヴメント構造の改良や、後の69年に発売された、既存の中3針の輪列構造のままクロノグラフを組み込むことができる垂直クラッチ式の自動巻きクロノグラフなど、特殊な構造を持つクロノグラフムーヴメントが誕生することになったのではないだろうか。
既存の技術を流用しつつ、合理的な設計を図ったセイコーのワンプッシュクロノグラフにぜひ注目してみてほしい。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender銀座
